2026(R08).10.27 魚にDHAが多いのはなぜ?食物連鎖の未解明ルートを発見
令和8年10月27日
甲南大学
大阪府立環境農林水産総合研究所
水産研究・教育機構
北海道大学
産業技術総合研究所
理化学研究所
魚にDHAが多いのはなぜ?食物連鎖の未解明ルートを発見
研究成果のポイント
- 魚類はDHAを自身では生合成できず、謎であった供給源の解明に大きな前進
- 原生生物ラビリンチュラ類の環境DNA調査などから、生態系の上位捕食者へのDHA供給者として、この生物群が最大の影響力をもつことが判明
- 漁獲量の予測や保全、高効率な養殖への応用にも期待
概要
多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)※1は、我々ヒトに必要不可欠な栄養素であり、脳や神経細胞の発達や機能維持に重要な役割を果たします。一方、ヒトは DHA を体内で十分に合成できないため、DHAを含む食物を摂取する必要があります。特に魚類はDHAを豊富に含んでおり、我々にとっての主要なDHA供給源となっています。
甲南大学理工学部生物学科 本多大輔教授、甲南大学大学院自然科学研究科 森本冬海博士後期課程学生、大阪府立環境農林水産総合研究所、水産研究・教育機構、北海道大学、産業技術総合研究所、理化学研究所の研究グループは、三陸沖海域での年間を通したモニタリングを行い、環境 DNA から推定された原生生物ラビリンチュラ綱※2のアプラノキトリウム類の現存量や、魚類の主要な餌である動物プランクトンのカイアシ類※3の食性などから、DHAの上位捕食者への供給において、アプラノキトリウム類の影響力が最も大きいことを明らかにしました(図1)。
魚類や動物プランクトンなどの捕食者はDHAをほぼ生合成できないため、その供給源は一次生産者の植物プランクトンとされていましたが、捕食者と生産者の脂質組成が大きく異なる「DHA パラドックス」が知られていました。本研究はこの謎の解明に大きな前進をもたらすものとなります。 本研究の成果は、微生物生態学に関する国際科学誌ISME Communicationsに掲載されました。

図1. 一次生産者(植物プランクトン)がアプラノキトリウム類に捕食されてEPAがDHAに変換され、さらに魚類の主要な餌であるカイアシ類に効率良く捕食される「アプラノキトリウム経路」によって、DHA の比率が上がることを見出した本研究によって、「DHA パラドックス」の解消に大きく近づきました(発表論文のGraphical Abstractの一部を改編)
資料(PDF:1,345KB)
※1ドコサヘキサエン酸(DHA): 炭素数22、二重結合を6つもつ多価不飽和脂肪酸(22:6n-3)で、オメガ3(n-3)系脂肪酸に分類されます。DHAは脳、神経組織、網膜の細胞膜に高濃度で存在し、細胞膜の流動性や神経機能の維持に重な役割を果たしています。ヒトの体内でも少量は合成されますが、その効率は低いため、主に魚介類などの食品から摂取する必要があります。
※2ラビリンチュラ綱: 水中に広く生息する単細胞の真核生物(原生生物)で、褐藻類や珪藻類などの黄色藻類や卵菌類などと一緒に、ストラメノパイル類(不等毛類)と呼ばれる系統群を形成します。DHA などの多価不飽和脂肪酸やアスタキサンチンなどのカロテノイド色素といった有用物質を生合成できることが知られており、それらの生態系における供給源としての役割や工業的な生産などでも着目されています。
※3カイアシ類: 数 mm 程度の小型の甲殻類(節足動物)で、海洋では動物プランクトンの中で最も豊富な生物群の一つです。植物プランクトンや原生生物を摂食し、魚類などの高次捕食者の餌となることで、海洋の食物網をつなぐ重要な役割を果たしています。