北太平洋亜熱帯域の生態系を支える窒素源の東西での違いを解明
論文公開日:2026年6月19日
研究実施者:水産資源研究所 海洋環境部 堀井 幸子ほか
北太平洋亜熱帯外洋域の生態系を支える窒素源の東西地域差を、広域観測に基づき初めて定量的に示しました。西部では有光層※1下の硝酸塩が主な窒素源なのに対し、東部ではこの硝酸塩に加え、大気を起源とする窒素固定※2の窒素も重要な役割を果たしていることがわかりました。
北太平洋亜熱帯の外洋域は、カツオやマグロ類、ニホンウナギなど多くの魚類の生育場であり、日本の水産業に欠かせない海域です。この海域では、植物プランクトンが必要とする栄養素のうち窒素が不足しやすく、窒素供給プロセスが生態系全体の生産性を左右します。しかし、その「窒素源の由来」について、広域かつ定量的に調べた研究は限られていました。
そこで本研究では、北太平洋を東西に横断する約1万キロにわたるラインにおいて、広域な海洋観測を行いました(図A)。大気を起源とする窒素固定由来の窒素と、有光層下からもたらされる硝酸塩の2つの窒素源に着目し、表層を漂う懸濁態粒子、表層から沈んでいく沈降粒子、有光層下に存在する硝酸塩、それぞれの窒素安定同位体比を計測して収支を計算しました。その結果、北太平洋亜熱帯循環の東部では、植物プランクトンの生育を支える窒素源として、窒素固定と有光層下の硝酸塩が同程度に寄与している一方、西部では有光層下の硝酸塩が主な窒素源であることがわかりました(図B)。
さらに、動物プランクトンやハダカイワシ類の窒素・炭素の安定同位体比※3も調べました。その結果、北太平洋亜熱帯外洋域では、どの海域でも植物プランクトンが食物連鎖を介して小型魚類までの生物生産を支えていることが確かめられました。また、北太平洋亜熱帯循環の西部では、硝酸塩の窒素同位体比が東部より低く、それに伴い生物の窒素同位体比も低下することもわかりました(図C)。このような西部の低い硝酸塩窒素同位体比の要因としては、海中での水平輸送や人間活動の影響など様々な可能性が考えられます。今回の成果は、太平洋亜熱帯域の生態系が海域ごとに異なる窒素供給プロセスによって支えられていることを示すものであり、その詳細な実態解明に向けた研究の進展が期待されます。
(用語解説)
※1 有光層:太陽光が届き、植物プランクトンが光合成できる層。
※2 窒素固定:大気中の窒素ガスを、一般的な植物プランクトンが養分として利用できる形態であるアンモニアに変換するプロセス。
※3 同位体比:同じ種類の原子のうち、重さ(質量数)が異なる原子の存在比率のこと。
本成果は国際学術誌Global Biogeochemical Cyclesに2026年6月19日付けでオンライン公開されました。本成果はどなたでもご覧いただけるオープンアクセス論文です。
表題:East-West Variability in Nitrogen Sources Sustaining Pelagic Food Webs in the Subtropical North Pacific Ocean Revealed by Stable Isotopic Analyses
著者:堀井幸子*1、齋藤宏明*2、福島慶太郎*3*4、大西雄二*3*5、木庭啓介*3、古谷研*6、高橋一生*6
*1:水産資源研究所
*2:東京大学大気海洋研究所
*3:京都大学生態学研究センター
*4:福島大学
*5:総合地球環境学研究所
*6:東京大学大学院
(B) 北太平洋亜熱帯域の東西観測点における窒素源に対する窒素固定の寄与率(残りは有光層下の硝酸塩によるもの)。
(C) 北太平洋の様々な海域における、植物プランクトンからハダカイワシ類までの窒素と炭素の安定同位体比。起点となる植物プランクトンの窒素同位体比は海域ごとの窒素源の特徴を反映し、その特徴を保ちながら、窒素と炭素の同位体比がいずれも食物連鎖を経るにつれて上昇する。